最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)571号 判決 1968年10月18日
上告人
太田茂
代理人
奥村仁三
被上告人
柴山繁助
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人奥村仁三の上告理由第一点について。
上告人は貸金の担保として本件自動車を預つたものであり、少なくとも事実上本件自動車の運行を支配管理し得る地位にあつたものであるから、この支配管理下における自動車の運行については、自動車損害賠償保障法にいう保有者として、その責を負わなければならないものである旨および、上告人の従業員である訴外岩佐末男による本件加害車の無断使用は、上告人の管理上の過失によつて可能になつたものであるから、同訴外人による本件加害車の運行は、その主観においては私用のための無断運転ではあるが、客観的には上告人による運転支配可能な範囲に属し、上告人は右運行により起こつた事故につき保有者としての賠償責任を免れない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。そして、同法三条ただし書にいう「注意を怠らなかつたこと」の主張立証責任は上告人にあるところ、上告人は原審において右の点については主張立証せず、したがつて原審の認定判断しないところであるからこの点についての所論は、適法の上告理由たり得ない。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同第二点について。
被上告人は道路の左側を歩行していたとはいえ、交通の妨げとならないよう、道路の端によつて歩いていたものであり、これを、無免許で右車を運転して、後方から追突した上告人の従業員岩佐末男の過失と対比するときは、過失相殺をしないのが相当である旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、被害者に過失ある場合でも、諸般の事情から賠償額をきめるにつきこれを斟酌する必要なしと考えれば、賠償額を減じなくとも妨げないものと解するのが相当である。よつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)